3000年前からここにあったというバラナシはさながら巨大な迷宮のような町で、とても1週間やそこら歩いただけで満足出来るところではない。
毎日カメラを持って、歩いて、写真を撮って。
バラナシの路地の支配者は人間ではなく牛で、その巨体はしばしば道を塞ぐ。その目に人間の姿など映ってないかのように自由気ままに歩き、ゴミをあさり、糞を垂れる。
ほんの僅かにこの町を覗きに来たに過ぎない旅人である僕からすると、草食動物全般に見られる愛嬌こそはもちろん感じるものの、根本的には邪魔者でしかない。
それはたぶんある一面においてここに住んでいるインド人にも思う事だろうと思う。道を塞ぐ牛には容赦なく叩く。
その行為には
「牛は聖なる動物」
というヒンズー教の有名な教義からは外れているように思える。
そういう人がいる一方で、すれ違い様に右手で牛をトンと触りその手を額に当てる人、牝牛の性器に水をかけて拝む人もいる。その真摯な姿には時に見ている僕の心を打つ。
毎日、ただ歩いて、ただ座っているだけで思索してしまう情景が目の前にやってくる。
「あと1日は居よう。」
そう思って既に10日も滞在してしまっている。
路地に迷い、そして心までこのラビリンスに迷い込む。
バラナシ。
この町の出口はまだ、見えない