神経衰弱の末に。

「そのホテルはモウナイ。ワタシ良いホテルシッテルネ。200ルピー。ワタシにツイテクルOK?」

 

(霧の中インドへ入国)
(霧の中インドへ入国)
(インド人が作った石畳舗装は拷問のようだ)
(インド人が作った石畳舗装は拷問のようだ)

その半分以上がダート(未舗装路)だった国境からの300kmを砂塵にまみれて体中真っ白になって辿り着いた聖地バラナシは人と車とバイク、リキシャ(三輪自転車タクシー)と牛とで埋め尽くされており、さらにインド人特有の唯我独尊的交通マナーにより混乱の極み。そして両耳から全ての聴覚を奪うかのように鳴り響く車やバイクのホーン、リキシャのベル。

彼らは進路の前に何かがあるとホーンやベルをこれでもか!という位鳴らす悪癖がありそれはただ鳴らすのが第一の目的であるようで、

 

「ホーンやベルを鳴らしたから前の車や人が進路を譲ってくれるかどうか」

 

 

というのは二の次三の次であるようだ。渋滞でまったく進まないのが明らかであるのに思いっきり鳴らし続ける。

 
(インドに時折ある「地元の名士」らしい像。半裸だがいったいどんな名士なんだろうか)
(インドに時折ある「地元の名士」らしい像。半裸だがいったいどんな名士なんだろうか)

それらのホーンやベルは音が大きければ大きい程、耳障りであればあるほど良いようでこの日100kmほど走ってバラナシ市内に入った疲労困憊した僕にとって神経をすり減らすには十分過ぎる音量だった。

 

 

それでもなんとか我慢して旅行者が集まるガンジス河近くの目印となるゴードリヤ交差点に自転車を押して辿り着くとチラホラとホテルが見えてくる。

 
対向車が象。
対向車が象。

すると、どこからともなく卑しい目つきをしたインド人達がわっと寄ってくる。

 

「ドコイク?」

「ホテル泊マルカ?」

「ホテル安イ」

 

外国人が多く訪れる有名観光地には必ず棲息する客引き達だ。僕がバラナシを訪れたのは7-8年ぶりで道も満足に覚えておらず、一旦道端で止まってスマホで現在地を確認するも、その一連の僕の動きなんか

彼らにとっては何の関係も無い。ただ

 

「僕を無視して」

 

ひたすら言葉を僕に叩きつけてくる。

(何かの冗談じゃないかと思う位混雑しているバラナシ市内)
(何かの冗談じゃないかと思う位混雑しているバラナシ市内)

それは客とコミュニケーションをとってホテルに勧誘する、という僕らの常識から思う客引きの姿ではなく、

 

「右も左も分からぬ外国人観光客(たいていバラナシに来るまでに列車やバスで疲れている)に

言葉を浴びせ続けて神経衰弱にさせ、判断力を低下させて拉致同様にホテルへと

連れていく」

 

というのが彼らにとっての正常な客引きの姿であるようだ。

 

そんな彼らにとって僕らが発する常識的な発言など何の意味もなく

 

「既にホテルは予約してある。サンタナだ」

 

と言おうものならバラナシの客引きの返答はだいたい次の2つの言葉を発する。

 

「そのホテルはもうつぶれた。俺がいいホテルを知ってるからついてこい」

「そのホテルに連れていってやる。俺についてこい」

 
町も人で溢れてるが列車もこの通り。
町も人で溢れてるが列車もこの通り。

の二つだ。前者はもちろん紹介料を得られるホテルへ連れていくための嘘。そして後者は例え僕がそのホテルの場所を知ってようと勝手に後をついてきて宿に着くや

 

「俺が案内してきたのだから紹介料をよこせ」

 

と宿の経営者を強請るのだ。

 

そんなホーンとベルと客引きでストレスも爆発しそうになり、渋滞中に後ろのバイクが軽く追突してきたのに本当に声を荒げて怒鳴り散らし(僕にとって怒鳴り散らす等人生でもほとんど例の無い事だ)、かたくなについてくる客引きに

 

「ついてくるな!」

 

と20回は言って、20回は

 

「ついて行ってない、俺はただ歩いてるだけだ」

 

と答えられ、

ようやくようやく目的の宿の前に着く事が出来た。

 

当然彼は宿の人間に

 

「俺が連れてきたから紹介料よこせ」

 

と言う。口コミで客が十分来る宿ゆえ紹介料は一切出さない宿、彼は追っ払われ、晴れてここで宿の中へ入る事が出来るのだった。

 

オーナーのゆきさんと。
オーナーのゆきさんと。

聖なる河ガンジスに面したヒンドゥー教徒にとっての聖地バラナシ。

そこで沐浴する事により穢れが洗い流されるという。

 

聖なるものと、客引きのような俗物と、聖俗全てがあるバラナシ。

 

すっごいむかつくけど、すっごい楽しい、不思議な町バラナシ。

 

 

ここで休養だ。


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